ここではない、どこか遠いところ

旅行記と、日々考えること

好きな小説ベストテン(2018年)

小説を読んでいるときに「これはベストテンに入るかな〜」と、ふと思ったのです。では、自分にとってのベストテンってどれなんだろう??

そんなに多読なほうではないのだけれど、5年後、10年後となれば好きな本は変わるかなという気もして、なので一応、区切りよく30歳(ほんとは31だけど)の節目での記録も兼ねて、ひたすら好きな小説について書いてみます。

余談ですが30と31の差ってほんと微妙で、31歳という年齢ってかなり空白の期間になりうる気がする。みんな「30代になった」というイメージが強いのか、31歳って覚えてくれないし、自分でも特に違いを感じないまま一年がおわりそうです。

第1位:『砂の女』安部公房

この本は、たぶん1位の座を10年はキープしている。読んだ時から「これは違う!」というビビビっとくるものがあり、その感動を超えてくる作品にはまだ出会っていない。

安部公房はいくつか読んだけれど、これが最もストーリーとして読みやすい。全体を覆う奇妙な居心地(人の顔がのっぺらぼうなんじゃないかと思うような不気味さ)、”砂”の物理的な不快感、人間の追い詰められる心理の極限の息苦しさ、そしてラストシーンに至るまで、天才的な筆力、描写力、独自性、などなど、人間・安部公房の才能が溢れている。たぶん安部公房が本来書きたいのは他の系統なんだろうけれど、物語性のあるこれが好きです。

おすすめポイント
奇妙な人間劇に取りこまれたい人へ。痒いのに手が届かない、そんなもどかしい感覚の極限を味わえます。

第2位:『春琴抄』谷崎潤一郎

これも10年くらい2位につけている。あまりにも好きなもので学生時代に展示でこの本を一冊まるごと使ってみた。それもなかなか狂気的で、この本のページを全部バラして、漢字の文字だけ線香で焼いて穴を開け、点字みたいにしていった。(あらためて書くとちょっと精神的に大丈夫か不安になるけど)

なぜそんなことをしたかというと、この本の日本語があまりに美しいから。谷崎潤一郎は一文が長くだらだらと続く文章を書くのだけれど、それが全く読みにくくなくリズミカルなのだ。内容としては『砂の女』に続きヘビーだけれど、あちらがグロテスクであるならこちらは日本画的な儚い美しさをもっている。

ストーリーは目の見えない女性とその弟子の恋愛話。けっこう単純な悲恋話ではあるけれど、引き込まれる。

おすすめポイント
美しい日本語が好きな人、ちょっとアブノーマルな恋愛が好きな人へ。

第3位:『沈黙』遠藤周作

つい先日読んだ本がいきなり3位にランクインしてしまった。

レビュー記事でも書いたけれど、描写力の力強さと正確さに感服した。読んだ人に情景を見せる力がとてもある人だと思う。絵的なことだけでなく、人間の心理に感しても描くのが上手い。そう、なんか上手いなぁという感じ。悪く言えばテクニック感はややある。

それから、個人的には遠藤周作自身が長らく主題として書き続けた「神」について興味がある、という理由もある。宗教や神という存在についてより深く知りたいので、新しい発見があるという意味で、普通の小説を読んで「面白かったなぁ」とは一線を画している。時代背景をきちんと書いているため、時代小説とまではいかなくともややノンフィクション風な楽しみ方もできる。

www.anyplacebut.tokyo

おすすめポイント
神、宗教に興味のある人や、世界遺産で長崎に興味をもった人は旅行前に読むとなおよいです。

第4位:『月と六ペンス』サマセット・モーム

長らく3位の座をキープしていたのに遠藤周作に押し出されたような…気がする。でも僅差で1位もありうるぐらいこのへんは好き。画家のゴーギャンがタヒチに移住して絵を描き続けたという実話に基づいた話。

上の3作品と違い、文章として好き!という感じはあまりない。基本的に外国人作家の小説(翻訳)は読みづらいなぁと思ってしまう。でもゴーギャンが好きということと、タヒチという静かで美しい島が舞台、というわけで読んで眼前に浮かぶ絵が綺麗。あとは『月と六ペンス』というタイトルの音と文字列、描かれるイメージとしての美しさがかなり気に入っている。小説というより一冊の本として大切なもの。

おすすめポイント
南国の風を感じて少し遠くへ行ってみたい人、アートや芸術に関心のある人へ。

第5位:『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』村上春樹

村上春樹の中では『ノルウェイの森』と迷うけれど、どちらかといえばこれを。なぜかというと、ひとえに「世界の終り」が好きだから。内容は正直あんまり覚えていなくて、綴じ込んであった「世界の終り」の地図が絵として頭に強く残っている。なるほど世界の終りってこんなもんかも、と妙に納得したし、端っこに来ているという物悲しい感情を読みながら抱いた。

「世界」というのはなんとなく「地球」と同一視され、まんまるなんじゃないか、と思う人が多いかもしれない。でも個人的には、丸ではなくもっとアメーバ状になっていて、だから突然地球のどこかに「世界の終り」があるという状態も成立しうるのかな、という気がする。高い塀で囲まれた広い空間を外から見たり、工場群の広い道路に足を踏み入れたときなんかは、あぁここも世界の終りかな、と考えます。

おすすめポイント
暑すぎてやってられないからファンタジックな世界へ逃避したい、そんな時に、完全に逃避できます。

第6位:『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ

人にお勧めしづらい本ナンバーワン。なんとかネタバレしないようにストーリーを説明すると、「子どもたちが施設で思春期を過ごす話」となってしまい、大して面白い話に聞こえないから。

でも実はその裏の設定は近未来的でもあるし哲学的な問いかけもしていて、かなり良く出来た作品だと思う。主人公の性格もあってかやや淡々と進むのに、先が気になってどんどん読んでしまう。

ドラマもやっていたけど、生身の人間になるとちょっと見ていられないな〜と正直思ってしまった。

おすすめポイント
一見普通の世界が実は普通ではない、そんな静かな異世界を感じたい人へ。

第7位:『江戸川乱歩傑作選』江戸川乱歩

読んだ当時かなり感動して、面白い!!と手放しで褒め称えた短編集。ただこれも10年前に読んだきりなので、具体的にはほとんど内容を覚えていない…。芋虫や人間椅子など、これでもかとグロテスクなのに、嫌な読後感ではない。(ちなみに私ホラーは見られないので大抵の人は読めるはず。)

おすすめポイント
少しグロテスクな話が好きな人全般におすすめ。

第8位:『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ

これまた内容はほぼ忘れてしまったのだけど、当時の自分が感銘を受けたという印象は強いので。恋愛メインなのにけっこう難解で、でも読む手を止められなかったという印象。読後にメモした引用がその奥深さを物語っている気がする。

人間の時間は円環状になって回るのではなく、前方に直線に進む。だからこそ人間は幸福になることができないのだ。幸福とは反復の欲望のことなのだから。
p.345

おすすめポイント
哲学的に恋愛を考えてみたい人へ。

第9位:『スティル・ライフ』池澤夏樹

これも内容が…(以下略)。根本的に記憶力が異様に悪いタイプなので小説や映画はすぐにストーリーを忘れてしまう…。

池澤夏樹の透明感にハマった一冊。彼の小説のなかでは今のところ一番良かった。キリッとしているわけでもなく、ふわっとしているわけでもなく、澄んでいるのに空虚さや間延びのない描写、ストーリーは他の作家にはない彼の持ち味。

おすすめポイント
重苦しくなく良い気分になれる一冊。

第10位:『中国行きのスロウ・ボート』村上春樹

短編集の中ではとても好きな一冊なので。池澤夏樹と並べてみると、二人とも個性的なようで普通なようで、ストーリーは俗っぽい気もするのにすんでのところで美しいような、捉えどころのない作家たち。で、色々共通しているのに全然違う印象だから面白い。

全然関係ない話だけど、池澤「夏樹」と村上「春樹」なんですね、といま気づいた。樹という字が入る名前って素敵だなぁと、ふと。

おすすめポイント
手軽にさらっと読んで、もやもやと何かを感じられます。



5位くらいまでは悩まないけれど、後半はけっこう「どんな本読んだっけ?」と悩みました。

意外なことにフィクション好きと思っていた自分はノンフィクションのほうを冊数として多く読んでいること、そしてフィクション(小説)に総じて評価を低めにつけていたことを知った。(ここに挙げたものは全て星5つ)

このリストをみると改めて「暗い、重い」という感じがしたので、とことんハッピーで、かつ星5つつけられる小説にも出会いたいものです。

映画はそんなに観ないのでたぶん10作品も選べないけれど、映画だと軒並みハッピー系が続くと思う…。映画と小説に求めるものが違うのかもしれない。映画で「考えさせられる作品」はほぼ求めてないけれど、小説では求めている。

…というわけで比較的重い本が並んでしまったけど、どれも個人的にかなりお勧めなのでぜひ読んでみてください。

各作家の代表作が多いので、その点安心感あるかと(笑)やっぱり代表作がいいのか、感性が普通だからか…。


35歳になったとき、このうち5冊くらい入れ替わっているといいなぁなんて思いました。それから、内容忘れているものは読み返したい。

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